私が初めてこうじさんを知ったのは中学生の頃。毎月読んでいた雑誌Viciousだった。バンド名は読めない。カタカナでラクリマ・クリスティーと書いてある。おしゃれなバンド名だなぁと子供ながらに思った。
その頃の私はバンドには一人カッコいい人がいる。という謎の定義があった。ラクリマではもちろん(というのは他の方に失礼か!?)彼であった。
雑誌や深夜のヴィジュアル系番組や音楽番組で見るたびにやはりカッコいい。バンド内でとても目立つ存在ではなかった彼だけどなにかとても惹かれるものがあった。
それから私は成長と共にヴィジュアル系には疎くなってその界隈のことは分からなくなった。
しかし30になりどうしたものか、とあるヴィジュアル系バンドのファンになったのだ。
自分で稼いだお金を自由に使える大人になり全国をバンドと回る中、横浜で本命バンドとALvinoの対バンが行われるという。
あのラクリマのこうじさんがアルビノというバンドを組んでいた事はもちろん知っていたのでこれは楽しみにするしかない。
チケ発をし整番は3番以内。大興奮である。
そして当日、アルビノの出番はファンの方に最前をお譲りしたが最後のセッションの際は最前列でこうじさんを観た。
私は本命が目の前にいるに関わらず、中学生の頃に雑誌やテレビで見ていたあのこうじさんが目の前にいて、あのこうじさんがギターを弾いている姿を目の前で観ている。という事実に胸が熱くなった。
その日のライブは本命よりもこうじさんを生で観られた喜びのが大きいものとなった。
ライブ後の感想は「いい香りがした」
香水なのかこうじさん本人から漂うオーラの香りなのか不明だが、とてもいい香りであったのを今でも鮮明に覚えている。
あれから何年経ったか、必死に追いかけていたバンドの事も忘れ、結婚出産というものをして家事育児に毎日てんてこ舞いだった私の元にショッキングなニュースが飛び込んできた。
こうじさんが亡くなったと。
私は嘘だろう?と信じられなかった。私の中ではついこの間ライブでこうじさんを観たばかりだというのに!?という感覚だったからだ。しかし時間は無情にも流れていてこうじさんの身体を病魔が蝕んでいたとはつゆ知らず。
私はこうじさんが亡くなる丁度一年前に父を癌で亡くしている。こうじさんの訃報はようやく癒えてきた「癌で大切な人を亡くす」という傷を再び開いたのだ。
しかしそれ以上に、中学生の頃に初めて雑誌でこうじさんを知り十数年後にライブでこうじさんを観られたあの時の喜びは、今でも私の大切な思い出となって心の中で生き続けている。
どうか空の上でゆっくり休んでください。お疲れ様でした。ありがとうございました。